クラフトビールと酒税について
私たちが普段飲むお酒。そのお酒には酒税というものが含まれています。その酒税についてどのぐらいご存知ですか?
今日は酒税についてお話を致します。
酒税についてのネタをおつまみにしてクラフトビールを飲んでみてはいかがでしょうか?
■酒税について
酒税とはアルコール1%以上の飲料、または溶解してアルコール分1%以上の飲料とすることができる粉末状のものに税を課すという意味で規定されています。
カテゴリとしては、大きく発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類、混成酒類に4つに分けられ、さらに12の種類に分けられています。
財務省のQ&Aによりますと、
お酒については、食料品などのような生活必需品とは異なる特殊な嗜好品としての性格に着目して、酒税を課していますが、お酒の種類ごとの生産・消費の状況等を踏まえた税負担を求めるため、その製造方法や性状等によりお酒を分類し、それぞれ異なる税率を定めています。
というコメントが公開されています。
■ビール税の歴史
ビール税(麦酒税)が導入されたのが1901年となります。この時、酒税は地租税を抜くほどの税収として重宝していました。
明治政府が『ビールは贅沢な嗜好品』ということで酒税を導入しました。
当時は確かに”贅沢”な嗜好品だったのかもしれません。
しかし今はどうでしょう?
日常になっていませんか?
”贅沢”の定義は明治時代と現代では変わらないのでしょうか?
その点も踏まえて、下記の記事を続けて読んでもらえたら幸いです。
■日本の酒税額
平成29年度の国税歳入によりますと、総額62.4兆円に対して、酒税は1.3兆円とおよそ2.1%の税収比率となっています。
そのうちビールは5,437億円、発泡酒は866億円の酒税の税収となっています。詳細については下記の資料画像を参照ください。
参考までにですが、平成29年度のたばこ税の国税は約1兆円程となっています。ですので酒税とほぼ近い額の国税税収だということが分かります。
※たばこ税は、国税収入とは別で地方自治体の税収にもなっています。ですので総額では2兆円程の税収となっています。
■酒税は何に使われるのか?
特定のものに使われていると言ことではなく、国の歳出の財源として活用されています。
その比率として大きいのは社会保障関係費、そして各自治体の予算となる地方交付税交付金等に使われているようです。
■世界の酒税と日本の酒税の比較
では世界の酒税はどうなっているのかをお伝えします。
結論申し上げますと、日本の酒税は海外と比べると倍以上の比率で課されています。
ビールの税率 (350mlあたり) | |
日本 | 約77円 |
イギリス | 約39円 |
アメリカ | 約7円 |
フランス | 約6円 |
ドイツ | 約4円 |
えーーーーーーーーー!?
イギリスの約2倍、さらにはアメリカやフランス、ドイツの約10倍!?
皆さまはこれを知り、どう思われるでしょうか。
■日本の酒税変更について
現在日本のビールに対する酒税(350mlあたり)は、約77円となっています。来月10月から70円に引き下げされます。更に2023年10月に63.35円、2026年10月に54.25円となります。
それでもイギリスやアメリカやフランス、ドイツよりも高い酒税がビールには課されているのが分かります。
発泡酒はカテゴリによっては税額の増額、そして新ジャンルは発泡酒にカテゴリ統合され税額の増額を行います。
新ジャンルという言葉はなくなり、2026年には発泡酒と同じく、ビールと同じ税額に統一されます。
■マイクロブルワリーはどうなる?
発泡酒も増税になるのならマクロブルワリーもしんどい状況になるのでは?と思われる人もいるかもしれません。
しかしほとんどのマイクロブルワリーはそうではないと思われます。
なぜかといいますと以前こちらの記事にも書きました表で説明いたします(前回記事)
覚えていますか?
発泡酒は麦芽比率によって3つのカテゴリに区分けされます。
酒税 (350mlあたり) | |
麦芽比率50%以上 | 約77円 |
麦芽比率25%以上50%未満 | 約62円 |
麦芽比率25%未満 | 約47円 |
大概のブルワリーさんは50%以上もしくは25%以上50%未満の麦芽比率でクラフトビールづくりをされています。
そうなると酒税が2026年に54.25円になるのであれば、減額になるのです。
しかしながら現在日本のクラフトビールの原材料が今後高騰していくと、必ずしもビールや発泡酒が安く提供されるということはないかもしれません。
その点も頭の片隅に。
■もし日本のビール酒税が10円を切ったら?
日本のビールや発泡酒の酒税(350mlあたり)が、10円以下になったらどんな世界になるのか?
単純に現在店頭で販売している大手ビールメーカーのプライスから70円程差し引く。
そうなると1本あたり150円程度でビールが飲めるようになります。
コンビニで買うソフトドリンクと変わらない値段になる可能性があります。
■酒税の設定には根拠はあるの?
酒税を課税するにあたり、アルコール度数が高いお酒は酒税を高く設定or低いお酒は酒税を低く設定されているのかを見ていきます。
蒸留酒のアルコール度数1%を100という基準で比較をした場合、下記のような形になります。
日本 | フランス | ドイツ | アメリカ | イギリス | |
ビール | 310 | 23 | 14 | 5 | 66 |
蒸留酒 | 100 | 100 | 100 | 100 | 100 |
ワイン | 67 | 1 | 0 | 5 | 82 |
アメリカはニューヨークでの調ベ
こちらも残念ながらビールよりもアルコール度数の高い蒸留酒やワインなどの方がアルコール度数1%あたりの課税負担率を試算すると、ビールが格段に高いのです。
そしてこの5つの国と比較した場合、日本だけが蒸留酒とワインよりも酒税額が高いのも分かります。
多分理論的に日本のビール税が高い理由を、現在話ができないのではないかなと思われます・・
私たちはなぜこの何となく設定されている酒税に関して疑問も思わず酒税を納めているのか。
そういったこともぜひ考えるきっかけになれば幸いです。
■私が感じるクラフトビール業界の一つの課題
蒸留酒やワインと比べて、贅沢品と言われているビールは市場価格が安いですよね。
ビールよりもアルコール度数の高いワインや蒸留酒で1万円以上の商品があったとしても、貯蔵年数やプレミアムな材料を使っているからといことで比較的受け入れられます。
もし1本、1万円を超えるクラフトビールがあったらどうでしょうか?
世界を見渡しても、そのような価格帯のクラフトビールはほとんどありません。
私自身は知りません。
なぜそのようなビールがないのでしょうか?
『ビールの平均相場は200~600円程度が普通』
という価値観が浸透していますよね。
しかし贅沢品と言われるお酒のビールの酒税は高級品のワインや蒸留酒よりもアルコール度数1%当たりの酒税が高いのです。
だけれどもビールの商品価格の相場としては安くあらねばならない。
そんな価値観が何となくの雰囲気で世の中に浸透しています。
安いからこそ、1本に対する酒税の比率も高くなります。
明治政府が酒税を導入するきっかけとなった”贅沢”というキーワード。
そして海外とのビールの酒税の差。
今一度考える酒税導入の原点や海外との差を知り、改めてお酒と向き合うきっかけになれば幸いです。
案外このネタがいいおつまみになるかもしれませんよ。